最近は環境の課題が重要な問題として議論されています。地球温暖化、排出物、化学物質などの課題は 比較的身近で国や社会での取り組みが必要でありながら、個人でも取り組みが可能です。
エコな暮らしやリスクへしっかりした対応をすることが、環境課題の解決につながり、直観的にも分かりやすい感じがします。 ところが、生物多様性の課題は、もう少し複雑です。個々の人は、どう考え、何に取り組めばよいのかを考えてみます。
・生物多様性の重要性
・個人としてのとりくみ
・まとめ
生物多用性の活動の歴史
簡単にここまでの歴史を振り返ってみます。
国際的には、1992年に開かれた「地球環境サミット(リオサミット)」で生物多様性の包括的な保全と持続的利用を目的とする生物多様性条約が採択されました。
日本は、1993年に生物多様性条約を締結し、同年に制定された環境基本法では、「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保」を基本的施策に位置づけました。
その後、2010年に愛知で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、愛知目標が採択されたました。その目標達成のために、生物多様性国家戦略2012-2020を作成し現在活動を行っています。
現在、2020年度までに重点的に取り組むべき施策の方向性として「5つの基本戦略」を設定しています。
5つの基本戦略
(1)生物多様性を社会に浸透させる
(2)地域における人と自然の関係を見直し・再構築する
(3)森・里・川・海のつながりを確保する
(4)地球規模の視野を持って行動する
(5)科学的基盤を強化し、政策に結びつける(新規)
生物多様性の重要性
生物多様性の恩恵
生物多様性の重要性は、我々が受けている恩恵から知ることができます。この恩恵がなくなったらどうなるかを想像すると重要性が理解できます。生態系から受ける恩恵のことを「生態系サービス」と呼んでいます。生物多様性の重要性を理解するためには、この生態系サービスを理解する必要があります。
生態系サービスとは
人間が生きていくのに欠かせない、食料、空気、水、住まい……。これらのほとんどは、生き物がもたらしています。米や魚、肉、野菜など、食料は生き物そのものですし、 飲用水は森林が濾過したものです。呼吸に欠かせない酸素は植物の光合成によってつくられ、多くの人が木でできた家に住んでいます。
これらの直接的な恩恵のほか、山に生えている草木が土砂崩れを防いだり、蜂の受粉が果樹の実を結ばせるなど、間接的な恩恵も受けています。人間を含むすべての生き物は、 直接的、間接的に他の生物の助けを借りて生きているのです。このような多様な生き物が持ちつ持たれつの関係の中で生きているシステム全体を「生態系」といいます。 そして、上で挙げたような生態系から私たち人間が受けている恩恵を「生態系サービス」と呼びます。
世界市民会議World Wide Views から抜粋
生態系サービスの分類
生態系サービスの分類例として分かりやすいのは、TEEBの分類に基づく4つのサービスです。この分類は国連の主導で行われた「ミレニアム生態系評価(MA)」を元にしています。
TEEBは、生態系と生物多様性の経済学(The Economics of Ecosystem and Biodiversity)」の頭文字をとってTEEBです。詳細はこちら
TEEBの生態系サービスの分類
サービス名 | 生態系サービスの分類 |
供給サービス | 食料(例:魚、肉、果物、きのこ) 水(例:飲用、灌漑用、冷却用) 原材料(例:繊維、木材、燃料、飼料、肥料、鉱物) 遺伝資源(例:農作物の品種改良、医薬品開発) 薬用資源(例:薬、化粧品、染料、実験動物) 観賞資源(例:工芸品、観賞植物、ペッ卜動物、ファッション) |
調整サービス | 大気質調整(例:ヒートアイランド緩和、微粒塵・化学物質などの捕捉) 気候調整(例:炭素固定、植生が降雨量に与える影響) 局所災害の緩和(例:暴風と洪水による被害の緩和) 水量調整(例:排水、灌漑、干ばつ防止) 水質浄化 土壌浸食の抑制 地力(土壌肥沃度)の維持(土壌形成を含む) 花粉媒介 生物学的コントロール(例:種子の散布、病害虫のコントロール) |
生息・生育地サービス | 生息・生育環境の提供 遺伝的多様性の維持(特に遺伝子プールの保護) |
文化的サービス | 自然景観の保全 レクリエーションや観光の場と機会 文化、芸術、デザインへのインスピレーション 神秘的体験 科学や教育に関する知識 |
こんなに多岐にわたっています。これこそが生物多様性の活動が分かり難くくなっている原因です。多くのことが、関連しており、それに携わる人々は個々の問題は理解しているけど、それが生物多様性の問題の全体像は理解できていないのではないでしょうか
分かり難い例は、たとえば外来種の問題です。外来種が入ってきて元々いた種が絶滅する問題です。でも発展途上国で外来種が入ってきたことで食料問題が改善したらどうなのでしょうか・・。 また里山の保全でもイノシシ、クマ、シカ・・が増えて人里におりてきて騒ぎになるのと、野生動物の保全など。いくらでも相反するような事例はでてきます。
生物多様性の課題
生物多様性国家戦略における課題
生物多様性国家戦略 2012-2020の中で 生物多様性の現状と課題として4つの危機が挙げられています。
第1の危機:開発など人間活動による危機
第2の危機:自然に対する働きかけの縮小による危機
第3の危機:外来種など人間により持ち込まれたものによる危機
第4の危機:地球温暖化や海洋酸性化など地球環境の変化による危機
これだけでも概略はわかりますが、少し視点が狭いような気もします。
WWFが注目する課題
WWFは、約100カ国で活動している環境保全団体です。このWWFが注目するCOPの10の課題です。
WWFは、「World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)」の略。
課題1:生物多様性の価値を明らかにする
課題2:野生生物の生息地を保全する
課題3:森林の減少をくいとめる
課題4:水を守る
課題5:環境に悪影響をもたらす補助金を撤廃する
課題6:人類の「エコロジカル・フットプリント」を下げる
課題7:魚などの漁業資源の乱獲を防ぐ
課題8:保護地域を増やす
課題9:生物多様性条約の効果をより拡大する
課題10:生物多様性保全のための新しい形
課題1は、やはり生物多様性の価値が不明確であり、課題10はそれに対し価値を明確にし保全の新しい形が必要とのことです。
課題2、3、4、7は保全する対象を明確にしています。
課題5、6、8、9は、具体的な保全のための施策です。
課題6は少しわかりずらいですが、人類の自然資源の過剰な消費の生物多様性への悪影響を減らすということです。
WWFの課題は少し具体的なので、個人の取り組みへの足がかりになるような気がします。
個人としてのとりくみ
個人的な取り組みをするときは、まず、自分の仕事や趣味などの関係で生物多様性につながる活動がないか考えるのが、最初の1歩です。わざわざ新しく活動を始めるより、現在やっていることの中で生物多様性の活動につながるこを見つけ、その意義を正確にとらえることが大切です。
これがWWFで課題にあげている生物多様性の価値を明らかにするにつながるのではないでしょうか。
次に必要なのは、自然を理解し愛することです。また生物多様性に何が重要で必要なのかを理解(勉強する)のが必要です。よかれと思って実はよけいなことをやっている可能性もあります。
これらに加え自分のやっていることの位置づけや価値を理解することが大事です。
好きなことを書きましたが、実際には実行すると、これらの事は簡単ではないのです。知識も考えることも理解することも必要です。
新しく何か活動を始めるときは、野生生物、森林、水、魚などを保全することを目標と考えるとよいのではないでしょうか、多くの場合は回りまわって、そこに繋がることが多いですが、それはOKです。楽しんでできることがおすすめです。
まとめ
個人の取り組みは、実際に何かに取り組みをするのはとても難しいです。私も自然や動物が好きで里山を愛して、白州で仮の田舎生活を楽しんでいますが、その価値や意味を見出すのはなかなか難しいです。
自分の活動に意味が見つけられれば、もっと楽しいのですが