ベンチプレスの良いところは、ピークが何年も続くところです。幅広い年齢の人が一緒にトレーニングや記録を比べて楽しむことができます。
そんなベンチプレスでも加齢とともにパフォーマンスが落ちていきます。
体形やテクニックは以前より改善されていているのですが、記録低下の原因は何なのでしょうか? 筋質が落ちるとパフォーマンスに影響がでると聞いて調べてみました!
どのスポーツもある年齢をすぎると、加齢とともにパフォーマンス落ちていきます。でもベンチプレスは、ピークを迎える年齢はかなり遅目で、加齢していっても急激にパフォーマンスが落ちていきません。
これは一流のアスリートも同様で40歳を過ぎてもトップ選手の人も多い競技です。
ノーギアの日本記録で加齢による記録の低下を確認してみます。今回は、代表して66㎏、74㎏、83㎏級を確認しました。ベンチプレスの日本記録のサイトはこちら
日本記録保持者(一般)の年齢
生年 | 年齢 | 記録(kg) | 樹立年 | ||
66㎏級 | 飛田渉 | 1999 | 23 | 205 | 2022 |
74㎏級 | 児玉大紀 | 1979 | 43 | 226 | 2020 |
83㎏級 | 鈴木佑輔 | 1984 | 38 | 222.5 | 2018 |
児玉さんは特別な感じもしますが、各階級の日本記録ホルダーは23、43、38歳です。23歳でも43歳でも日本記録ホルダーになれるのはベンチプレスならではです。でも8階級中5階級は20代なので、アスリートとしては20代でピークがくると考えられます。
一般とマスターの記録の比較
M1 | M2 | M3 | M4 | |||||
66㎏級 | 170kg | 83% | 160kg | 78% | 145kg | 71% | 130kg | 63% |
74㎏級 | 226kg | 100% | 172.5kg | 76% | 149kg | 66% | 133kg | 59% |
83㎏級 | 203.5kg | 91% | 192.5kg | 87% | 170kg | 76% | 140kg | 63% |
平均 | 91% | 80% | 71% | 62% |
M1 40歳~49歳、M2 50歳~59歳、M3 60歳~69歳、M4 70歳以上
各マスタークラス(M1~M4)の左側の値は挙上の日本記録、記録の横にある%は、一般の日本記録との比較です。
M1で一般の記録に対し平均で91%のパフォーマンスを維持しています。面白いのは、M1⇒M2⇒M3⇒M4と年齢がすすむにつれて、パフォーマンスが、90%⇒80%⇒71%⇒62%と約10%ずつと区切りよく落ちていることです。
ベンチプレスを比較的真面目にやり始めたのは40歳ぐらいからです。現在まで約24年のキャリアがありますが、記録の伸びは穏やかです。最初の12年で120㎏を達成してからはほとんど伸びがありません。
16年目に125㎏を挙げたのがパーソナルレコードになっています。その後も数回125㎏を挙げています。ここ数年も毎年120㎏以上を挙げています。
週2回ぐらいのペースでトレーニングを行っていて、その頻度のトレーニングでも2014年、2015年はベンチプレスの東京大会にでています。
ベンチプレスを始めた40歳の時は体重が70㎏。120㎏を初めて挙げた54歳のときは、74㎏です。現在は、76㎏です。55歳、56歳で試合にでたときは72㎏台で74㎏に出ています。
最初に120㎏を挙げたときより、現在の方が体形(お腹が凹んでいる、筋肉がよりついている)は改善されていますが、記録は伸びず苦労をしています。長年トレーニングを行い体形が改善されているにも関わらず記録が伸びていないのは何故でしょうか??
少ないデータですが、40歳以降のベンチプレスの加齢によるパフォーマンスのダウンは
・競技で争っているアスリートでは、10年ごと10%程度のダウン
・趣味で楽しんでいる人はギリギリ維持か少しダウン(60代まで)
パフォーマンスのダウンする原因の一つに筋質の劣化の影響があると言われていますが、どういうことでしょうか?
私の場合は、記録的には維持している感じですが、トレーニングの質や量、体形は以前より向上していると自負しています。それでも記録が伸びないのは、やはり加齢のせいでしょうか??
でも加齢により一体何が変わるのでしょうか?
調べてみると、どうも筋質(筋肉の質)がキーワードのようです。加齢とともに(加齢だけではないけど・・)、筋肉の質が劣化して、見た目は同じ体形でも筋力がダウンしてしまいます。
通常ならば、筋力は筋肉量に比例するのですが、この法則が成り立たなくなるのです。
筋肉は、「筋線維」と「筋繊維以外の組織(水分・脂肪・結合組織)」から成り立っています。これらの構成の比率が変化により劣化が起こります。
同志社大学スポーツ健康科学部教授の石井さんによると
◆筋質の劣化の原因は
・エネルギーの摂りすぎで、筋肉の細胞の中や周辺に“サシ”のように脂肪が入り込む
・糖尿病などの生活習慣病
・加齢や運動不足による筋細胞における「オートファジー」の機能不全
オートファジーは、細胞が自身内のたんぱく質を分解し、新陳代謝などを行ったりするためのリサイクルシステムです。このリサイクルシステムによって細胞をいつも新品の状態に保っています。
健康産業で有名なタニタでは、この筋質を測定ができる体組成計を開発しています。タニタの取り組みについて確認してみます。
タニタは、筋力の衰えや、身体機能の低下は「筋肉量」だけでなく、筋肉の質(状態)も影響すると考え、研究してきています。筋質が高い、低いを以下のように定義しています。
◆筋質が高い
・筋線維が密に存在
・脂肪や水分、結合組織が少ない
◆筋質が低い
・筋線維が細い
・筋線維以外の割合いが増える
タニタの記事「筋質とは?」
タニタではこの筋肉の状態を点数化しています。具体的な点数化のプロセスは分かりにくいのですが、数字として筋肉の状態の変化が分かるのはとても有効です。
左右部位別体組成計 インナースキャンデュアル RD-804L (ブラック):医療・研究機関で体組成計測のゴールドスタンダードとなっている4C法使用したタニタの体組成計測技術を集約した体組成計です。世界で初めて部位ごとの筋質点数測定を実現。両腕・両脚はそれぞれ筋肉の質を指標化した「筋質点数」測定を可能にしました。
体組成計 インナースキャンデュアル RD-930L (ブラック):4C法使用したタニタの体組成計の廉価盤です。「筋質点数」測定を可能です。
ベンチプレスのパフォーマンスを加齢により落とさないことはできるのでしょうか? 筋質が劣化する原因のエネルギーの摂りすぎ、生活習慣病、オートファジーの機能不全などです。全てをコントロールすることは難しそうですがコントロールできる部分も多そうです。
ベンチプレスは年齢の影響が少ないスポーツで長期間楽しむことができます。
ここで取り上げた筋質を維持、向上させることでパフォーマンスの向上も期待できます。
更にテクニックや神経系を鍛えることによってもパフォーマンス向上が期待できます。60代でもまだまだ楽しめるのがベンチプレスです。